基本的人権の保障される社会の実現へ向けて

法学部長
冨田 真
1. 歴史と地域
東北学院大学法学部は、東北地方随一の私立法学部として50有余年の歴史を持っています。1万5千人近くの卒業生の進路は多様ですが、警察官、消防職員、市役所職員や国家公務員として、特に10年前の大震災後には地域の復興やコミュニティーの形成に貢献をするなど、東北だけでなく北海道や関東など全国的に顕著な活動をしています。また、これらの職場だけでなく、多くの先輩方が就職された環境において法学部での学びを基礎に多大の貢献をされています。
2. 教育理念・目的
現在の社会には、医療、労働環境、リストラなど教育、政治や行政において絶え間なく解決を求められる課題が山積しており、私たちはこれらの課題の解決に取り組む必要性が深まっています。こうした課題の存在は日常的に新聞や様々なメディアにより報道されており、これらを認識することはそれほど困難ではありませんが、それらをどのような理念や方向性のもとで解決していくのかという点については様々な見解がありえます。
東北学院大学法学部の教育理念・目的は「法的知識と法的思考を、人間の尊厳のために」というモットーに示されており、これが先の課題解決のための導きの糸となりそうです。最近のカリキュラムの基本方針は、基礎的素養を確実に身につけることに置かれており、1年次では、本格的な専門科目の履修に備えて、ほとんどの学生が基礎演習Ⅰ(1年次)と基礎演習Ⅱ(2年次)において、法律文献の調べ方、文章の書き方、レポートのまとめ方などを学修し、4年次までの専門性の強い科目を確実に理解できるように制度設計されています。このように体系化されたカリキュラムのもとで学修する中で皆さんは、公務員試験や企業法務で必要とされる知識を体得し、法曹として必要な法的思考を習得することができるようになるでしょう。
3. 法学部で学ぶということ
法学部教育において重要な「法的思考能力」を身につけるためには、時間をかけて文献や判例を読むことを繰り返せば足りるわけではありません。例えば、ある判決文を読み、事案や主文の内容を理解することができたとしても、対立する当事者の主張に対して裁判所がなぜ主文の結論に到達したのかを正確に把握することは困難です。事案で問題とされる規範の意味についていかなる解釈がとられるのか、判例や学説による長年に亘る積重ねがあります。規範を事案に当てはめたときにいかなる解釈がとられるべきなのかを自分で考える力、解釈論を主体的に行う能力がなければ法律を正しく理解することはできません。しかも、訴訟では新たな論点をみせる事案も多くありますから、過去の事案や判決をそのまま覚えるだけの学習では、そうした新たな法的問題についての正しい解釈論を展開することは不可能ですね。法的思考能力は、皆さんが将来、職場や社会において様々な課題を解決しつつ活動する上でも不可欠なものとなるでしょう。
こうした能力は、卒業後の社会生活の営みの中でより一層鍛錬されていくべきものですが、そのためには大学での学修においてその基礎を築いておく必要があります。充分に予習と復習をした上で教員の講義を聴くこと、演習での教員やゼミ生との議論、教科書以外の著書や論文を読むこと、そうした作業が重層的に皆さんの能力を飛躍させてくれるはずです。皆さんが充実した大学生活を送られることを心より願うと同時に、卒業の日を迎えるまで、私たち教員もその共同作業の中にあり続けます。