東北学院大学

経済学部 共生社会経済学科

さらに共感力を磨く:北村元氏からのメッセージ

北村 元 氏

第12回講師 北村 元

皆さん、こんにちは!お元気ですか。遠くから、仙台の春を想像しています。

以下の文章は、私が2015年5月に貴学で講演させて頂いた「共感力を磨く」の話をもとにして、加筆・修正・短縮したものです。共感力を磨くうえで、ご参考になればと思い書きました。

2016年3月


フランスの思想家ジャン=ジャック・ルソーは、生後8日で母を亡くします。母の遺したたくさんの本を、父と息子は夕食後に、代わる代わる音読し、ルソーは読書力だけでなく、理解力や共感力を身につけたと言われます。

私が心を動かされた言葉は、二十世紀ブラジルの大作家ギリェルメ・フィゲイレド氏が言った「真実は、私たちが生きる目的だ」というものです。

27年前に、テレビ局のバンコク支局長の時代に、ベトナムで、枯れ葉剤の被害者を間近にみてしまったら、見て見ぬふりはできなくなりました。実際の現場に、人の心を突き動かす力を感じました。そんなエネルギーを感じた時こそ、自分の使命感、共感力を磨くチャンスではないでしょうか。


数年前 イギリス政府が、世界の多くの科学者と協力して行った調査研究があります。幸福につながる展望プログラムという大規模な調査です。そのテーマは、「人間が、より豊かな心で幸福でいるためには何が必要か」、「幸福度の向上につながる5つの行動とは何か?」というものでした。出来上がった膨大な報告書には、日常の生活の中で実践できる5つの項目が勧められています。そして、5つの行動が幸福になる秘訣ではなく、それらの行動を通じてこそ幸せが生み出されてくる、というわけです。

  • 第1は、周りや地域の人々と「つながること」
  • 第2は、「活動的であること」
  • 第3は、「関心を持つこと」
  • 第4は、「学び続けること」
  • 第5は、人に何か良きものを「与えること」

すなわち、身近な家族や友人、地域を大切にして、人間とつながり、生き生きと活動する。社会や環境に積極的に関わり、学ぶことを怠らず、人のために献身する――ここに、豊かな心で幸福に生きるための要諦があるというのです。

ここではこれら5つの実践項目を拝借して、「共感力」を磨く研磨剤にしてみたいと思います。


第1は、「つながること」

皆さんの身近なところに目を向けてみましょう。ケア宮城と公益財団法人プラン・ジャパンは、2011年夏に世界保健機関(WHO)が発表した「サイコロジカル・ファーストエイド」をもとにして、国内版として「被災者の心を支えるために」を発行しました。WHOのサイトを訪問したい方は、下記にアクセスしてください。

WHO:心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)フィールド・ガイド (PDF)

上記の冊子では、心の支援活動の基本は「3L」。つまりLook(見る)、Listen(聴く)、Link(つなぐ)と。ここでも、「つなぐ」が大事とされています。

「つなぐ」とは、寄り添う、真摯に話を聞くことであり、励ましは、どんなにか、人を蘇生させ、心と心を結び、社会を活性化させていく草の根の力となることでしょう。・・・いろいろな表現で言い換えられると思います。対話を通して落ち着かせてあげる。悲しみを減らし、悲しみを取り除いてあげる。もう大丈夫と安心させる努力をする。少しでも希望を開けてくれるような人へのつながりを作ってあげる。人が持っている心の強さや能力を引き出していく。共に希望を見出していく・・というものになるでしょう。

「聴く」は、「つなぐ(あるいはつながる)」ための大事なツールです。それは「聴く芸術」ともいえます。できるだけ時間をかけて、患者・被害者の話に耳を傾ける。この心が、安心感を与え、励ましとなり、病を癒す力となっていくと確信します。相手の言うことに、じっくりと耳を傾ける。「真摯に傾聴する」こと自体が、「抜苦」、つまり「苦しみを抜く」ことになります。これは「聴くアート」です。「あの人は、私のことをわかってくれている」・・この信頼が、相手に何倍もの力が湧きだす源泉になります。これは、私が、ベトナムで枯れ葉剤被害者と対面してきて何回も経験してきたことです。自分と正反対の意見であっても、しっかりと耳を傾けて、自分自身を客観視していく。そして、関わっていくことです。

つまり、社会と深く関わっていくことが暮らしの中で最も重要な基礎になります。大震災を経験した皆さんだからこそ、自分たちの時間やエネルギーを、助けてあげたい人、困っている人のために使っていることと思います。これからも、それを続けてください。

第2は、「活動的であること」

活動的であるとポジティブな気分につながります。それは確かですが、もうちょっと高みのある話をしましょう。

「失敗も多いですが、自分は『ファースト・ペンギン』の心意気で頑張っています!」と、ある社会人1年生が話していました。

ファースト・ペンギンは、群れで行動するペンギンの中で最初に海に飛び込むペンギンのことです。そこから、ハイリスクを恐れずに未知の分野に挑む人を指すのです。ペンギンは、餌をとる時は命懸けです。1匹目は当然、アザラシやシャチに襲われる危険性が高いのです。「でも、自分が動かなければ永遠に魚を得ることはできない」と本能的に考えているのでしょうか。

氷山の上で譲り合いの雰囲気を破って、まず飛び込む1匹が「ファースト・ペンギン」です。これを目にした仲間たちは、せきを切ったように一斉に飛び込みます。この1匹目がいるからこそ、群れ全体の生存が確保されているともいえます。

なんと、去年12月には、NHK朝の連続テレビ小説「あさが来た」で、「ファースト・ペンギン」という言葉が話題になっていると聞きました。すっかり有名になりました。

脳科学者によりますと、人間も、決断、判断を迫られ、不確実な未来に立ち向かうことで脳は発達する、と言われています。

挑戦している時こそ成長があり、充実があり、したがって幸福があります。

ボランティア活動や地域活動など貨幣価値に還元されない人間生活の重要な領域が、近年おざなりにされてきました。この領域を、しっかりとした共生社会構築の大事なポイントと捉え、義務としてではなく、権利として、そして使命感として受け止めてやっていこうと考えれば、ボランティア活動は価値創造へと昇華していきます。その波動を皆さんの足下から起こしていきましょう。

第3は、「注意を払うこと、関心を持つこと」

世界で起きていることや周りの人々のことをどれほど気にかけていますか? 他人を思いやる注意深さは、実は幸福と強く結びついています。

少し難しい話をさせてください。

2004年の春。メキシコのカンクン で開かれた第11回国際感染症会議(ICID)で驚くべき報告がなされました。過去25年で開発された新薬の数は1400種類。そのほとんどが、先進国で問題となる生活習慣病などのもので、発展途上国で問題となっている病気に関するものは、わずか1%にも満たないのです。

なぜ、何故発展途上国の疾病は放置されるのでしょうか。

貧困の患者に不利な国際環境が出来ているからです。例えば、貧困の患者のための研究がほぼ放棄されている、さらに特効薬はできているのに薬の値段が高すぎること、貧困の患者用の薬は利益が薄いことなどから製薬会社が製剤しない、特効薬ができたのに製薬しないうちに病原菌によっては耐性が出来てしまったなどがその理由です。2001年以降は、世論の動きやジェネリック薬(特許期間が切れて製造された同等の効果をもつ後発医薬品で安価な薬のこと)との価格競争に押されて、薬価は大幅に下がりましたが、富裕国に本拠地を置く多国籍製薬会社が、ジェネリック薬の入手を厳しく制限していることなどがあります。

世界の8割以上の人が暮らす発展途上国では、適切な予防治療がなされないまま、感染症が猛威を振るい続けています。顧みられないこうした地域のために、安全で、安価で、効果のある薬を開発して届けたい。そう決意した一人の女性が、斬新な社会事業を始めました。

ヴィクトリア・ヘイル博士率いるアメリカ初の非営利製薬会社インスティテュート・フォー・ワンワールド・ヘルスが創業されたのです。その事業は、先進国が進むべき共生社会の一つの方向性を示しています。第1号として、40年以上製造が放置されていた薬を、2010年9月から低コストで製薬しはじめました。

高い欲望の追求より高い志の達成こそを共生社会の一つの大きな潮流にしたいものです。「自他ともに喜べる」文化・社会の鼓動は、もっともっと広がって行かなくてはなりません。

第4は、「学び続ける」ことです。

続けることが重要です。一生を通して学び続けるのです。好奇心を持ち学び続ける人は、人生の幕引きをはじめた人よりもずっと健康です。正規の学習である必要はありません。まずは、知識ベースではなく好奇心からスタートして若い時にトレーニングしましょう。

続けること大事であるという身近な例を、失明の恐れがある寄生虫病などの治療薬として、年間3億人を救っている「イベルメクチン」の開発に貢献し、ノーベル生理・医学賞に輝いた大村智さんが示してくださいました。大村教授は夜間高校の先生から研究者になり、数千億円の特許料を放棄して無料で薬品を配り、数億人の命を救った偉大な研究者です。その大村教授が若い人に向けたメッセージがあります。

「最近感じること。失敗すると沈んでしまう子が多い。成功した人は、誰よりも失敗した人」(出典:『ノーベル賞』大村智の研究内容って!?三億人以上救ってきた研究と貫いた信念)

大村教授もまた、失敗から学んで立ち上がってきたことを教えてくれています。夜間高校の教師時代、学生たちが仕事の後で汚れた格好で学校に真面目に通ってくる姿に心を動かされ、研究をさらに続けねばと励みにしたとも話ました。

人生は、成功から学ぶより、失敗から学ぶことの方が、はるかに多いです。

最後の一つは、最も非経済的な行動ですが、「与える」ことです。

人に何か良きものを与えることです。品物である必要はありません。寛大さや利他主義、そして同情など、これらは全て脳内の報償メカニズムと深く結びついています。与えると良い気分になります。

2003年。オーストラリアの隣国東ティモールのグスマオン大統領(当時)は、キューバのカストロ首相(当時)と会談しました。東ティモールという新国家の前に立ちはだかる平均寿命の低さ、乳児死亡率の高さ、人口爆発の話を聞き、即座にカストロさんは、「医者千人」の派遣を申し出たのです。キューバは東ティモールに約280人の医師を派遣しました。約束より少ないじゃないかと思われるでしょうが、後日談があります。キューバ政府の奨学金制度のもとで、第一回の奨学生として700人の東ティモール人がキューバの医学校に送られ、6年の勉学を終えて母国に戻りました。さらに、150人の東ティモール学生が、2005年12月に首都ディリの国立大学にキューバの援助で設立された医学部で学びました。

すごい贈り物です。訓練された医師と看護婦の計画的頭脳流出は、キューバ最大の人的輸出となっています。

”医は算術”が圧倒的な世界の主流の中で、医は仁術を貫くキューバ。カストロさんは、「すべての人々とともに、そして、すべての人々のために」というキューバ独立の英雄ホセ・マルティが生涯の指針とした言葉を実行したものと、私は思っています。

キューバには、7万3千人もの医師がいて、国民一人当たりでは米国の2倍にもなります。アメリカによる54年間の経済封鎖は、実はキューバを医療大国にしたのです。

以上5つの行動指針は、地球資源の枯渇や環境汚染を生じるものではありません。そして、ここを良く理解してください。皆さんの人生に、共感力、或は幸福感、充足感を引き出すキーポイントは、5つの行動を通じてそれらが生み出されてくる過程の中にあるのです。そして、そのために、時間とエネルギーを注いでほしいのです。


四苦八苦という四文字の熟語をご存知でしょう。人間の一生は、生老病死との戦いです。これが「四苦」です。自分の生涯をどのように祝福しながら、生き抜いていくか。これこそが、人生の究極の課題なのです。

いくら財産を手に入れ、高い地位についても、「人のために」という心の発光ダイオードがなければ、人は輝きません。

日本は人生90年時代に入りました。若い皆さんには、心の根底に「人のため」との価値を置き、共感力で行動し続ける人生であってほしいと念願しながら、私の話を終えます。

著者の北村 元(きたむら はじめ)氏のプロファイル

北村元氏

ベトナムで支援活動を続ける筆者

大阪市生まれ。アナウンサーとしてテレビ朝日入社。BBC(英国放送日本語部)に4年余勤務。エイプリルフール放送では、デジタル時計に移行するので現在の時計は廃止になるとのBBC放送史に残る創作ストーリーを放送。バンコク支局長、ハノイ支局長、シドニー支局長を経て、テレビ朝日退職。退職後、西シドニー大学名誉客員研究員として、ベトナム戦争の枯れ葉剤被害の取材を続け、『アメリカの化学戦争犯罪』(梨の木舎刊)を出版(2006年)。その後英文による要約版出版(2007年)。

ベトナム枯れ葉剤被害者の支援活動は今年27年目に入る。1996年にハノイ近郊の農家や枯れ葉剤被害者宅を訪問する野崎ゼミの旅行にも参加したほか、その後2011年と2014年の共生社会経済学科のフィールドワークCの研修旅行に同行している。『イギリスのユーモア』、『ロンドン抜きの英国旅行』などの著書がある。趣味は写真。

筆者のベトナムブログ:http://ainovietnam.jugem.jp/