2022年度卒業式告辞
東北学院大学を卒業される2,578名の皆さん、大学院を修了される42名の皆さん、そして博士号を取得された皆さんご卒業おめでとうございます。この日を心待ちにされてきた保護者の皆様のお喜びはいかばかりかと存じます。学長として、心よりお祝い申し上げます。
また今年度の卒業式は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために2回に分けて行います。思い出してもらいたいのですが、ここにいる卒業生の多くの皆さんと最初にお会いしたのは、忘れもしない4年前の2019年4月3日、カメイアリーナ仙台においてでした。私が東北学院大学に赴任した直後の入学式でしたので、新入生だった皆さんも、私も互いに緊張していました。それから早いものでもう4年間が経ちました。この間、私も皆さんも東北学院大学という同じ空気を吸ってきましたが、対面において正常に授業ができたのは、その年だけで、その後の3年間はコロナ禍の中で遠隔授業を取り入れながら制限された学生生活を送ることを余儀なくされてきました。それでも、こうして、皆さんは自己管理や危機管理に努め、卒業に必要な単位を修得し、卒業試験や卒業論文、修士論文や博士論文が認められて、学士、修士、博士として母校である東北学院大学を卒業します。
今年の1月に大変嬉しい知らせが大学に届きました。本学文学部英文学科を卒業された佐藤厚志さんが第168回芥川賞を『荒地の家族』という作品で受賞されたのです。皆さんの中にはもう読まれた人もいるかもしれませんが、「荒地」としか言いようもない、東日本大震災後の主人公の心の風景が描かれています。主人公坂井祐治は亘理町で造園業を営む40歳の男性です。息子を残して病死した妻、流産の後に家を飛び出した2度目の妻、因縁のある同級生や周囲の人々との交わりを通じて、震災後の日常と被災地に生きる人々の孤独、寂しさ、悔しさを描き、最後に、時の経過から生まれてきた希望を綴り、締めくくられています。発災から12年の年月を経て、人々の記憶が風化しつつあるときに、人々の心に残る思いを上手に伝えています。この作品に対して、「暗さ」や「辛さ」を感じて読むことができないという人々がいますが、私は、作者である佐藤厚志さんの東北人らしい、素直で、真面目で、真っすぐなお人柄が出ている作品だと捉えています。芥川賞の選考委員たちも、「人は己が無力を感じながらも、絶望的状況にひたすら耐え、誠実を尽くそうとするその態度によって救われる」とか、「震災を便利づかいしていない誠実さを感じた」と述べています。佐藤さんは、被災による苦しみや絶望をあたかもルポルタージュのように誠実に描くことを通じて、これらの苦しみや絶望からの救いを求めたのです。
さて、皆さんは、小学校高学年の時に東日本大震災を経験しましたので、その記憶をとどめている最後の世代だと思います。また大学4年間の4分の3をコロナ禍によって行動制限された世代でもあります。そういう意味で、自然災害による苦しみや困難に直面しながら成長してきた卒業生たちであります。これから社会に出てから、IT操作は上手だが、コミュニケーション能力に欠けるだの、こんな作法も知らないのかなど、あたかも戦争で青春を奪われた帰還兵のような言われ方をされるかもしれません。
しかしながら、皆さんは、震災が津波や原子力発電所の事故によってどれほど辛く、痛ましく、重いものであったのか、またコロナ禍の中で感染リスクを回避するためには、どうしたらいいかを直接知っており、さらには苦しみの結果、より強く知恵のある者となるためには、どうすればいいのかを考えてきました。突然襲ってくる地震や津波のような自然災害や新型コロナウイルス感染症のような疫病は、いかに科学技術が発展しようとも、抑えられるものではありません。また震災やコロナ禍のような伝染病は、プレート移動の活発化や地球温暖化により一層その危険性が高まってきています。
皆さんが卒業する東北学院大学は、専門分野の科学技術を教えるだけではなく、キリスト教による人格教育を建学の精神として、苦しみからの救いや、より強く知恵あるものとして生きるための希望の道を教えてきました。キリスト教そのものが、古代ローマ帝国の圧政や迫害のもとで、悪や苦しみからの救いの道を教えるものでした。新約聖書ヨハネの黙示録21章4節には、神は「目から涙をことごとく拭い去ってくださる。もはや死もなく、悲しみも嘆きも痛みもない。最初のものが過ぎ去ったからである」と、救いにある新しい希望について述べています。芥川賞作家の佐藤さんは、震災後の人々の日常を誠実に描くことにより、「荒地」の苦しみからの救済を文学という形で示しました。
私は、東北学院大学の卒業生となる皆さんが、震災の苦しみやコロナ禍の苦しみを経験しているからこそ、苦しみにとどまらないで、より強く知恵のある者として救済を用意することができると確信しています。東北学院大学のスクール・モットーはLIFE LIGHT LOVEです。これからの人生どのような苦しみや困難が待ち構えているかわかりません。LIFEいのちと個人の尊厳を大切にし、LIGHT大学で学んだ成果や部活で培った力で世の中に貢献し、LOVE人や自然を愛するだけではなく、人や自然からも愛されるような人間になってほしいと願っています。どうか、東北学院大学の卒業生として、LIFE LIGHT LOVEという「マインド・マップ」を携えて、それぞれの旅路を歩んでいってください。
ご卒業おめでとうございます。
2023年3月23日
東北学院大学 学長 大西 晴樹