東北学院大学

学長の部屋

2020年度卒業式告辞

東北学院大学を卒業される2,451名の皆さん、1人の博士号取得者を含む大学院を修了される52名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。この日を心待ちにされてきた保護者の皆様の喜びはいかばかりかと存じ上げます。学長として、心よりお祝い申し上げます。

また今年度の卒業式は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のために、卒業式を2回に分けると同時に、保護者の出席をご遠慮いただいておりますが、宮城県・仙台市に3月18日より緊急事態宣言が発出されたことを鑑み、卒業生代表者のみの出席による卒業式であることをお断り申し上げます。

さて、NHKの新しい大河ドラマの主人公である渋沢栄一は、近代日本を代表する実業家にして、慈善事業家であり、「近代日本の父」と呼ばれるべき人物であります。渋沢が設立に関わった会社は、仙台の七十七銀行をはじめとして実に481社、他に大学をはじめ500以上の教育、医療、福祉などの団体を支えました。

実は、東北学院との関わりも浅からぬものがあります。東北学院第2代院長のシュネーダーは、渋沢の事を「東北学院の大恩人」と呼んでいます。というのは、現在のウェスティン・ホテルの場所に建っていた東北学院中学部が仙台大火によって全焼した時、渋沢が東京で、財界人を集めて寄付金集めのパーティーを開いてくれ、新校舎建設のための多大なる費用を捻出してくれたからであります。

渋沢はクリスチャンではありませんでしたが、シュネーダーを尊敬していました。シュネーダーは、渋沢が率先して寄付をしてくれたことを、アメリカ合衆国の百貨店主にして、クリスチャン慈善家ジョン・ワナメーカーに伝えます。今度は、その数年後に起こった関東大震災の時に、日本の惨状を思いやるワナメーカーから多大なる義援金が渋沢のもとに届けられました。

渋沢は、口述集『論語と算盤』において、「私は常に、精神の向上を、富の増大とともに進めることが必要であると考えている。人はこの点において、強い信仰をもたなければならない」と述べ、信仰をもつことの大切さを強調しています。シュネーダーも、渋沢のことを、聖書の言葉である『めいめい自分のことだけではなく、他人のことにも注意を払いなさい』(ピリピ2:4)の精神に合致する人物であると讃えています。

それにしても、今なぜ、渋沢栄一なのでしょうか。そして、渋沢は、2年後には福沢諭吉に代わって1万円札にも登場するというではありませんか。

私は、産業革命以来人間が自分たちの欲望を満たすために、化石燃料を使って利益至上主義を追求した結果が、今日の貧困と地球温暖化による自然環境破壊であり、偶然的要素が重なったとはいえ、新型コロナウイルスの蔓延だと考えています。渋沢は、実業家として利益を追求しながら、シュネーダーが称賛するように「自分のことだけではなく、他人のことにも注意を払う」人物だからこそ、この混迷を極める時代に必要とされているのではないでしょうか。

2月13日の福島県沖地震と、つい先日の3月20日にも大きな地震がありましたが、今年の3月11日は、東日本大震災から丁度10年の歳月を数えました。よく「10年ひと昔」と言われますが、最大マグニチュード9.0の大地震、多くの命を飲み込んだ巨大津波、その後の東京電力福島第一原子力発電所の事故を、ここにいる卒業生の多くは、小学6年生の時に経験したと思いますが、決して忘れられないのではないでしょうか。未曽有の自然災害や、技術を過信した人為災害によって、愛する肉親や、多くの人びとの命や生活がいとも簡単に奪われた現実を目の当たりにし、悲しみや苦しみは記憶の奥深いところに刻み付けられているのだと思います。しかしながら、他方で、復旧・復興事業やボランティア支援の活動を通じて、皆さんは、人々が地域社会において「自分のことだけではなく、他人のことにも注意を払い」ながら助け合う姿を見て、この10年間、成長してきたのです。

今日この日をもって皆さんは、それぞれの専門の学問を修め、ある者は学士として、ある者は修士として、またある者は博士として、最後の一年間は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための遠隔授業により思うようなキャンパスライフや就職活動が出来なかったと思いますが、皆さんは、母校である東北学院大学を卒業します。その先には、貧富の差がますます拡大し、地震や異常気象による自然災害が頻発し、ウイルス感染症がいまだ収束しない時代や社会が待ち受けています。そのようなとき、「自分のことだけではなく、他人のことにも注意を払い」、他人の喜びや悲しみ、そして、自然との共棲や動植物の息遣いにも注意を払う役割を果たしてほしいのです。これからの時代や社会はそのような人物を必要としており、今や、皆さんの出番なのです。

東北学院大学は、キリスト教による人格教育という建学の精神の下に、LIFE LIGHT LOVEをスクール・モットーとする大学です。LIFE(いのち)とは、有限な生命体の命と、神が自らの似姿として創造された個人の尊厳を互いに大切にすること、LIGHT(ひかり)とは、学問や科学の成果によって新しい時代を切り開くこと、LOVE(あい)とは、隣人愛をもって、地域や世界に仕えていくことなのです。

どうか、東北学院大学の卒業生として、このLIFE LIGHT LOVEの教えを胸に秘め、これからの長い人生を精一杯幸せに生きていってほしいと願っています。最後に、聖書の言葉を贈ってお別れしたいと思います。『めいめい自分のことだけではなく、他人のことにも注意を払いなさい』(新約聖書フィリピの信徒への手紙第2章第4節)。

ご卒業おめでとうございます。

2021年3月24日

東北学院大学 学長 大西 晴樹